千の夜をあなたと【完】
4.復讐の予告状
<side.ボルグ>
3月中旬のある日。
その日は海が凪ぎ、穏やかな日だった。
ボルグはいつもの舟小屋に向かい、漁で使う網を取り出した。
ボルグの肌は長年の漁師生活によって真っ黒に焼け、目の周りや口元には深い皺が刻まれている。
ボルグは白髪の混じった頭を掻きながら、舟小屋から網を引っ張り出した。
そのまま海岸線の近くへと歩いていく。
……と。
海岸線に何か白く大きなものが転がっていることに気付き、ボルグは首を傾げた。
――――何だろう。
と近づき、それを覗き込んだ瞬間。
「ひぃ――――ッ!?」
ボルグは網を放り出し、仰け反った。
それは海水でパンパンに膨れ上がった男の死体だった。
髪は少し赤味かかった金色で、どちらかというと色白だ。
恰幅が良く、上等な衣服を身に着けている。
そしてその胸元には、何やら木の筒のようなものが差し込まれている。
書簡だろうか。
ボルグはしばらく呆然と死体を見つめた後、一目散に町の方へと駆け出した。
<***>