千の夜をあなたと【完】



<side.セレナ>



――――なんだか、体がふわふわする。

いや、ガタガタすると言った方がいいのか……。

セレナはその長い睫毛を瞬かせ、そっと翠の瞳を開いた。

ここは……。


「……セレナ様、気が付かれましたか?」


見ると、セレナの向かいにセレナ付の侍女が二人座っている。

どうやらここは馬車の中らしい。

首を傾げたセレナに、向かいに座った侍女が言った。


「これから、別荘に向かうところでございます」

「……別荘?」

「はい、エスター様のご指示でございます」


侍女の言葉にセレナは息を飲んだ。

この頃、屋敷の雰囲気がどこかおかしいことにセレナも気付いていた。

屋敷を警備する兵の数が多くなり、どこか物々しい雰囲気が立ち込めていた。

そしてメイド達の話から、ウェルシュ伯とリュシアンが来るらしいということも知っていた。

しかしエスターはセレナには何も言わず、いつも通り優しく接していた。


まさか……。



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