千の夜をあなたと【完】
と、ホールに入りかけたところで。
リュシアンの横から兵装姿の兵士が切りかかってくる。
リュシアンはすっとそれを避け、振り向きざまに剣を振り上げた。
兵士に向かい、素早く剣を振り下ろす。
「……ぐぁっ!」
リュシアンの剣は兵士の利き腕にヒットし、兵士は剣を取り落した。
その傷口がみるみるうちに紫色になっていく。
兵士は慌てて剣を取ろうとしたが、足がふらつきまともに立っていることもできない。
どうやら傷口から痺れ薬が体に回っているようだ。
リュシアンは唖然とそれを見つめていた。
「……イーヴのやつ。こういうことだったのか……」
――――昨日の夜。
野宿のテントの中で、イーヴはリュシアンにこう言った。
『今回は絶対に負けられない戦いだ。勝つためには兵の力に頼るだけではだめだ。より確実性を高めないとな』
『……は?』
『さっき、皆の武器にちょっと細工をしておいた。くれぐれも刃には触らないよう、皆に伝えておいてくれ』