千の夜をあなたと【完】
どうやらクームブランをとっさに投げたらしい。
しかしとっさに投げたにしては、しっかり命中している。
やはり敵に回したくはない。
唖然とするリュシアンの前で、イーヴはエスターに歩み寄りうっすらと笑った。
エスターは肩を押さえ、片膝をついている。
その目には苦痛と、どこか諦めたような光が宿っている。
「その剣。まさかこうして、お前に返すことになろうとはな……」
イーヴはエスターを見つめながら言った。
――――二年前のあの夜。
イーヴはこの剣をエスターより渡された。
そしてこの剣は、ずっと復讐の象徴としてイーヴとともにあった。
「俺にはもうその剣は不要だ。今度はお前が使うか?」
イーヴの言葉に。
エスターは血の気が引いた、青ざめた顔で少し笑った。
「……いえ。この剣は、リュシアン様にお返ししますよ……」