千の夜をあなたと【完】
エスターは言い、ぐっと唇を噛みしめた。
クームブランの柄に手を置き、一気に刀身を抜く。
ばっと床に血が飛び散るとともに、クームブランがカランと床に転がった。
と、その時。
「エスター様っ!?」
甲高い声とともに、廊下からセレナが部屋の中へと駆け込んできた。
セレナが走ることなどめったにない。
久しぶりの妹の姿に驚くリュシアンの前で、セレナはエスターのもとへと駆け寄った。
「……どうして、……セレナ……」
エスターは肩を押さえ、呟いた。
その手の間からどんどん血が流れ落ちていく。
セレナは涙に滲んだ瞳でキッとエスターを見据えた。
「私はあなたの妻です! そう言ったのは、エスター様ではありませんか……っ」
「……セレナ……」
「どうして、あなたは……私に、何も……っ」