千の夜をあなたと【完】
セレナは紅茶を飲み、くすりと笑う。
――――二年前と変わらない、その笑顔。
けれどどこか、強さというか……しなやかさが加わったような気もする。
セレナはティーカップを持ったまま、口を開いた。
「それにしても、お姉様が生きてらっしゃることをしばらく秘密にするというのは、どうしてなのですか?」
セレナの質問に、リュシアンはうーんと考えながら口を開いた。
「オレにもはっきりとはわからないけど。レティは今、公には死んだことになってる。葬式までしたわけだしな」
「……」
「それが、『実は生きてて一年半誘拐されてました』なんてことがバレたら、あいつは一生、まともな結婚はできない」
「確かに、そうですわね……」
「それならレティは死んでることにして、こっそりとどこぞの侯爵家の養子にでもした方がいい。そうすればレティは侯爵令嬢になる」
リュシアンの言葉に、セレナはなるほどといったように頷いた。
その翠の目が明るく輝く。