千の夜をあなたと【完】



4月下旬。

内陸のウェルシュの街にもようやく春がやってきた。

レティは自室でイーヴからの書簡を広げていた。


あれからリュシアンは無事に伯爵位を継承し、ティンバート伯爵となった。

そしてエスターとセレナはロンカスタ郊外のエインズワースの別荘でしばらく生活することになった。

結婚を取り消してもいいのではと周りは言ったが、セレナが頑として断ったらしい。


エスターがティンズベリーで3人の教師をしていた頃、セレナはとてもエスターを尊敬していた。

その気持ちはいつのまにか尊敬から愛へ、そして夫婦愛へと変わっていったのだろう。


ちなみにトマスはあまりウェルシュを空けるのはよろしくないという理由で、数日後にはウェルシュに戻ってくる予定だ。


「……」


レティはイーヴからの書簡をじっと見つめた。

書簡には、5月中旬にウェルシュに戻るとある。

リュシアンは既に伯爵位を継いだが、伯爵位継承に関わる儀式だの手続きだのがいろいろあるらしく、イーヴもそれを手伝っているらしい。

リカードもトマスもいない今、伯爵位を持つイーヴが兄の近くにいてくれたことは本当にありがたいと思う。


けれど……。


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