千の夜をあなたと【完】
<side.イーヴ>
初夏の爽やかな風が窓から部屋に吹き込んでくる。
イーヴはティンバートの執務室で書類をひたすらめくっていた。
今見ているのは、エスターが施政をしていた時の財務や税務の記録だ。
ペンを片手に書類をめくり、気になるところにはチェックを入れる。
「……やはりあの男、なかなかのやり手だったな」
新しい産業に投資したり、収入に応じた弾力的な税制を導入したり……。
締めるところは締めて、けれど必要なところには思い切って金を使う。
ウェールズの貴族でもここまでできる者はなかなかいないだろう。
野心に見合うだけの能力はあったということなのかもしれない。
能力を持ちながら、それを発揮する場がないというのは確かに不幸だ。
野心というのはそういうところから生まれるのかもしれない。
そういう意味では、自分は恵まれた環境にいるのだろう。