千の夜をあなたと【完】



イーヴはチェックを入れ終ったところで、その書類をばさっと執務机の上に置いた。

執務机ではリュシアンがイーヴと同じように書類に目を走らせている。

地味な作業ではあるが、今後施政をしていくためには必要なことだ。


イーヴは静かに踵を返し、執務室を出た。

と、ちょうどそこにゼナスが通りかかる。


「あ、イーヴ様!」

「……なんだ?」

「さきほど、フレイ侯爵家から返事がありました。イーヴ様の申し出を受けるということです」


ゼナスの言葉に、イーヴはふむと頷いた。

……先日。

イーヴはゼナスを通し、フレイ侯爵家に養子縁組の打診をした。

フレイ侯爵は65歳くらいの侯爵で、子供はいたが病死してしまい、それからはウェールズの南部でつつましやかな日々を送っている。


「フレイ侯爵家側はいつでもよい、とのことです」

「そうか。何か要求は?」

「いえ。金銭も権利も、特に何も要らないとのことです」


< 480 / 514 >

この作品をシェア

pagetop