千の夜をあなたと【完】
イーヴはチェックを入れ終ったところで、その書類をばさっと執務机の上に置いた。
執務机ではリュシアンがイーヴと同じように書類に目を走らせている。
地味な作業ではあるが、今後施政をしていくためには必要なことだ。
イーヴは静かに踵を返し、執務室を出た。
と、ちょうどそこにゼナスが通りかかる。
「あ、イーヴ様!」
「……なんだ?」
「さきほど、フレイ侯爵家から返事がありました。イーヴ様の申し出を受けるということです」
ゼナスの言葉に、イーヴはふむと頷いた。
……先日。
イーヴはゼナスを通し、フレイ侯爵家に養子縁組の打診をした。
フレイ侯爵は65歳くらいの侯爵で、子供はいたが病死してしまい、それからはウェールズの南部でつつましやかな日々を送っている。
「フレイ侯爵家側はいつでもよい、とのことです」
「そうか。何か要求は?」
「いえ。金銭も権利も、特に何も要らないとのことです」