千の夜をあなたと【完】
朝食の後。
レティは自室に戻らず、そのまま庭の東屋で時間を潰していた。
――――もう、時間はない。
イーヴはもうすぐ戻ってくる。
レティはぼんやりと東屋から薔薇園を眺めた。
薔薇園の中でひときわ目を引く、スノーメアリの花。
二年前の誕生日にイーヴが贈ってくれた花……。
あのときイーヴはベスティアリーの訳も一緒に贈ってくれた。
胸に切ない痛みが込み上げる。
レティは顔を覆い、嗚咽した。
二人が初めて結ばれた、あの夜。
イーヴは『初めて会った時から忘れられなかった』とレティに告げた。
きっとイーヴは、自分が思っていたよりずっと深く強い愛情を自分に向けてくれていたのだろう。
あの頃の自分はそれに全く気が付かなかった。
もっと早く気付いていたら、運命は今とは違ったものになっていただろうか?
レティは涙の滲んだ目で、ぼんやりと風に揺れるスノーメアリを見つめていた……。