千の夜をあなたと【完】




――――あの10年前の夜。

壁に掛かっていた剣が聖遺物だと気付いた二人は、森番にその旨を伝え譲ってもらおうとした。

そもそもこれは聖教会の遺物で、異教徒が持つべきものではない。

森番は二人の話を驚いた様子で聞いていたが、先祖伝来の品だからと丁寧に断り続けた。

しかし痺れを切らしたナイジェルが剣を鞘走らせ……。

――――まずい、と思った時には遅かった。

ナイジェルの剣が森番の胸を貫き、さらにナイジェルは怒りに任せて森番の妻を辱めようとした。

ナイジェルは昔から女癖が悪く、酒も入っていたせいかまるで悪鬼のように女に襲い掛かった。

リカードはとっさにナイジェルを止めようとしたが、その弾みでナイジェルの手元が狂い、ナイジェルは妻の胸をも短剣で貫いてしまった。

……騎士としても聖教徒としても悖る行為。

二人は3人に手早く止めを刺し、あの家を逃げるように後にした。


あの家に少年がいたことは、今の今まですっかり忘れていた。

しかし、この文面の内容といいナイジェルを手に掛けたことといい、下手人はあの時の少年以外にはありえない。


――――これは、脅しではない。


< 49 / 514 >

この作品をシェア

pagetop