千の夜をあなたと【完】
――――あの10年前の夜。
壁に掛かっていた剣が聖遺物だと気付いた二人は、森番にその旨を伝え譲ってもらおうとした。
そもそもこれは聖教会の遺物で、異教徒が持つべきものではない。
森番は二人の話を驚いた様子で聞いていたが、先祖伝来の品だからと丁寧に断り続けた。
しかし痺れを切らしたナイジェルが剣を鞘走らせ……。
――――まずい、と思った時には遅かった。
ナイジェルの剣が森番の胸を貫き、さらにナイジェルは怒りに任せて森番の妻を辱めようとした。
ナイジェルは昔から女癖が悪く、酒も入っていたせいかまるで悪鬼のように女に襲い掛かった。
リカードはとっさにナイジェルを止めようとしたが、その弾みでナイジェルの手元が狂い、ナイジェルは妻の胸をも短剣で貫いてしまった。
……騎士としても聖教徒としても悖る行為。
二人は3人に手早く止めを刺し、あの家を逃げるように後にした。
あの家に少年がいたことは、今の今まですっかり忘れていた。
しかし、この文面の内容といいナイジェルを手に掛けたことといい、下手人はあの時の少年以外にはありえない。
――――これは、脅しではない。