千の夜をあなたと【完】
5分後。
レティはメイベルに連行されるがまま食堂に入った。
食堂は屋敷の2階にあり、窓からは木々の生い茂る庭が見える。
レティが住んでいるティンバート伯爵家の屋敷は木とレンガでできており、1階はホールや礼拝堂、応接室、晩餐室、図書室などがある。
2階はレティやリカードなど家族の個室が並んでおり、家族用の食堂も2階にある。
そして地下はキッチンやパントリー、ワインセラーなど、使用人が仕事をするスペースとなっている。
レティ達は普段はこの2階にある家族用の食堂で食事をとり、来客や晩餐会のときは1階の晩餐室で食事をとる。
レティはいつもの自分の席に腰を下ろした。
目の前には既にライ麦パンや鰊のパイ、果物のコンポートなどが並んでいる。
その中に異様な色と匂いを放つ一皿を発見し、レティは嫌そうに眉を顰めた。
それはどす黒い緑色で、正体不明の木の枝のようなものがぷかりぷかりと浮かんでいる。
――――これが体に効くにしても、これを飲むストレスでその効能は相殺されそうな気がする。
などと思っていた、その時。
「おはよう、レティ」
声とともに、レティより頭半分ほど背の高い青年が食堂へと入ってきた。
青年というよりまだ少年と言った方がいい年恰好かもしれない。