千の夜をあなたと【完】
7.侯爵家での日々
――――7月。
レティの姿はフレイ伯爵家が所有する、広大な森林の中の湖のほとりにあった。
湖はウェルシュでイーヴと行った狩猟場の湖より、数倍の広さがある。
青緑の湖面に映る森の木々を眺めながらレティは湖のほとりを散策していた。
その隣には少し痩せ形の老人の姿がある。
老人の名はハワード・ギルバート・フレイ。
フレイ伯爵だ。
「ハワード様、ほら、あそこ!」
レティが指差した先で魚がぴょんと跳ねる。
ハワードはレティが指差した方を見、目を細めた。
目尻に皺が寄り、優しげな表情になる。
「……ほう、あれは何の魚かね?」
「何でしょう? 鮭でしょうか、鱒でしょうか……?」
うーむと考え込んだレティに、ハワードは優しい視線を投げる。
20数年前に唯一の子供だった娘を病で亡くし、さらに10年ほど前に妻を病で亡くしたハワードは、湖のほとりの屋敷でメイド達とひっそりと暮らしていた。
そのためレティが養子となり、家族となったことをとても喜び、レティのことを孫のように可愛がってくれている。
レティからすると優しいお爺ちゃんという感じだ。
イーヴに嫁いでも、年に何回かはハワードに会いに来たい。