千の夜をあなたと【完】
<side.セレナ>
3月中旬のある晴れた日の午後。
セレナは本を片手にエスターの部屋へと向かっていた。
本のタイトルは『ユリアナ』。
あの日の題材は『ベオウルフ』だったが、セレナが『ユリアナ』を借りたいと言うと、エスターは快く貸してくれた。
エスターの部屋には物語の本がいろいろあり、セレナが頼むと、エスターはセレナが読めそうな本を吟味して貸してくれる。
セレナは姉と違い、あまり活発な性格ではない。
詩学や音楽が好きで、部屋でそういったものを楽しみながらゆっくり過ごすことが多い。
「エスター様、いらっしゃるかしら……」
セレナはエスターの部屋をノックした。
しばしの沈黙の後、ガチャっという音とともに扉が開く。
扉の向こうに立っていたのは、エリオットというエスターの従者だった。