千の夜をあなたと【完】
エリオットは短い銀髪で、いつも動きやすそうな薄手の長衣と脚衣を身に着けている。
エスターとともにロンカスタからやってきた彼は、エスターの身の回りの世話だけではなく様々な雑用もこなしているらしい。
「これは、セレナ様。エスター様はただ今、来客中でございます」
「……来客中?」
「ええ、リネット男爵夫人が……」
と、エリオットが言った時。
部屋の奥からエスターの声がした。
「大丈夫ですよ。こちらにどうぞ、セレナ」
エスターの声に、エリオットはドアを大きく開けてセレナを部屋の中へと通した。
セレナが中に入ると、赤いドレスを着た貴婦人が優雅に会釈した。
30歳くらいだろうか、長い黒髪を頭の上でまとめ唇には鮮やかな紅がさしてある。
……まさに大人の貴婦人、という感じだ。
貴婦人はドレスの裾を抓み、にっこり笑って優雅にお辞儀した。
「初めまして。わたくし、ヒューバート男爵の妻、リネットと申します」