千の夜をあなたと【完】
その完璧な所作にセレナは少し気遅れしながらも、腰を屈めてお辞儀した。
「私はティンバート伯爵の次女、セレスティーナと申します。セレナとお呼びくださいませ」
セレナは一礼し、その緑の瞳に柔らかな笑みを浮かべた。
セレナの瞳を見、リネットはくすりと笑う。
「噂以上にお美しい姫君ですこと。本当に、母君に良く似てらっしゃるわ」
「リネット様は、母をご存じだったのですか?」
「セレナ様の母君はそれは御綺麗な方でしたわ。優しくて上品で、わたくしたち、皆ロレーナ様に憧れておりましたのよ」
リネットはその赤い唇に笑みをはき、目元を和める。
その隣で、エスターもアンバーの瞳を細めて口を開いた。
「リネットは詩学に詳しいので、きっとセレナのいい話し相手になると思いますよ?」
「まあ、本当に?」
「わたくし、今日はあいにく時間がないのでこれで失礼いたしますが、また今度、ゆっくりとお話ししましょうね、セレナ様?」
リネットは言い、もう一度優雅に一礼した。
どうやらリネットはもう帰るらしい。
セレナとエスターは部屋を出ていくリネットの後姿を見送った後、窓際の長椅子に腰かけた。