千の夜をあなたと【完】
「ヒューバート男爵邸では今夜、舞踏会を開くようです」
「舞踏会、ですか?」
「リネットはその準備のために帰ったのでしょう。また話す機会はありますよ?」
エスターは穏やかに微笑みながら言う。
……いつも穏やかで優しげなその眼差し。
たまに大人の色気を感じるときもあるが、エスターの穏やかな笑顔を見ると、セレナはどことなく安心感を覚える。
それはエスターの年齢が一回り上だからかもしれない。
父のような、年の離れた兄のような……。
厳格で近づきにくい雰囲気の父に比べ、エスターはとても話しやすい。
……と。
セレナはエスターに頼みたいことがあったことを思い出し、顔を上げた。
「そういえば、エスター様。来月末の舞踏会ですが……」
「ああ、イーヴ様の誕生日に開催される舞踏会ですね?」
セレナはこくりと頷いた。
4月の下旬、イーヴは17の誕生日を迎える。
そしてその翌々月、姉のレティはイーヴとともにグロスターに行き、婚礼を挙げる予定だ。
ちなみに姉のレティはあと一週間ほどで誕生日を迎え、17歳になる。