千の夜をあなたと【完】
とある晴れた日の昼下がり。
レティは籠を片手に裏庭で薬草取りをしていた。
ティンズベリー教会ほどではないが、屋敷の裏庭でもそれなりに薬草は栽培している。
――――30分ほど前。
食堂でのんびりと午後のお茶を楽しんでいた時、たまたまイーヴが廊下を通りかかった。
それが運の尽きだった。
『おや、レティ。相変わらず忙しそうで何よりだよ』
いきなりの皮肉にレティは顔を思い切り顰めた。
……やはりコイツはヘソが曲がり切ってる。
レティは確信しながら無理やり笑みを浮かべた。
『あら、何かご用でしょうか? イーヴリオン伯爵様?』
『昼から茶とはいい身分だね、お前。……ちょっとこっちに来な』
『え……ええっ!?』
レティは腕を取られ、半ば連行されるようにして玄関の外へと連れてこられた。
食堂にいたメイド達はおろおろと二人の姿を見守っているが、イーヴを止めようとはしない。
伯爵の称号というのはそこまで恐ろしいものなのか。
と思いながらもどうすることもできないレティに、イーヴは玄関脇にあった籠をぽんと渡した。