千の夜をあなたと【完】



『それにディルの葉を一杯になるまで摘んどいて』

『……』

『後で見に来るから。しっかりやんなよ』


イーヴは言い捨て、ひらひらと手を振って厩舎の方へと向かっていった。

……人使いの荒さは相変わらずだ。

レティはその後ろ姿を眺めながら、婚約した時のイーヴの言葉を思い出した。


『ご愁傷様。一生こき使ってやるから、覚悟しなよ?』


何度思い出しても背筋がぞぞっとする。

このまま一生、自分はイーヴにこき使われるのだろうか……。

……専属の薬草摘みとして。

それなら自分でなくてもいいような気がするのだが……。


レティはぶつぶつ文句を言いながら薬草を摘んでいた。

ずっと中腰だとだんだん腰が疲れてくる。

レティは籠に半分ほど積んだところで、ふーっと背筋を伸ばした。

その時。


後ろの木陰に人影を感じ、レティは首を傾げた。



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