千の夜をあなたと【完】
レティの言葉に、青年はしばしの沈黙の後、軽く頷いた。
ティンバート伯爵家の裏庭はそのまま小高い山に続いている。
たまに山から下りてきて裏庭に迷い込む人もいる。
レティはティンバート家の門の方を指差した。
「あちらから出れば、大通りの方に出られますよ?」
と言ったレティを、青年はじっと見つめた。
その冴え冴えとした蒼い瞳に、レティは内心でこくりと息を飲んだ。
心の奥まで凍ってしまいそうな、冷たい瞳……。
けれど、なぜか目が離せない。
レティは吸い寄せられるように青年を見つめていた。
「……」
無言のレティの前で、青年はくるりと踵を返して山の方へと戻っていった。
どうやら大通りの方には行かないらしい。
レティは青年が林の中に消えていくのを見届けた後、再び薬草摘みを始めた。