千の夜をあなたと【完】
青年というよりまだ少年と言った方がいい年恰好かもしれない。
レティはその姿を見、あからさまに顔をしかめた。
そんなレティを見、青年はくすりと笑う。
「なに? その生気の抜けた顔。魂を夢の中にでも置いてきたんじゃないの?」
「……」
「いくら間抜けなお前といえど、夢と現実の区別はついてるよな? ……さ、早くそれ飲んで。この俺がお前のためにわざわざ作ったんだから」
青年は響きのよいアルトの声で楽しげに言う。
レティははーっと盛大なため息をつき、向かいに座った青年を見た。
青年の名はイーヴリオン・ヒュー・ブラックストン。16歳。
通称、イーヴ。
ウェールズの南、グロスターを拠点とするブラックストン侯爵家の嫡男で、弱冠16歳ながら伯爵の称号を持つ。
15歳でキングス・カレッジを主席で卒業し、今年からウェルズ聖教会付属のアカデミー・ノースウェルズに在学している、いわゆる『天才』。
得意分野は薬草学・医学・錬金術で、16歳ながらその知識と造詣の深さはアカデミーの教師陣も舌を巻いているらしい。
ちなみに現在、イーヴはティンバート伯爵家の客人という扱いだ。
アカデミー・ノースウェルズはティンズベリーの郊外にあり、イーヴは毎日馬車でそこに通っている。