千の夜をあなたと【完】




「……本当にわからないわけ? お前」

「……っ」

「わかるまで泣かせてやろうか? ……お前の泣き顔、俺は嫌いじゃない」


甘いアルトの声、甘い瞳……。

思わず目を真ん丸に見開いたレティの耳に、イーヴはそっと口づけた。

……柔らかく、しっとりとした感触。

初めてのその感触に、レティは思わず息を飲んだ。


「……っ」


なぜか胸が物凄い勢いでバクバクと動き出す。

顔が真っ赤に染まっていく。

……何も考えられない。

イーヴはぼうっとするレティの頭の後ろに腕を回し、髪にそっと指を差し込んだ。

優しく髪を梳きながら、レティには聞こえない小さい声でぽそりと呟く。


「……泣き顔が一番可愛いなんて……、因果だよね、お前も」


言いながらイーヴはレティの髪を指先でくるくると弄ぶ。

レティは高鳴る鼓動を感じながら、呆然とイーヴを見つめていた。


< 68 / 514 >

この作品をシェア

pagetop