千の夜をあなたと【完】
6.誕生日
3月下旬。
朝露が庭の木々を湿らせ、少しひやりとした朝の空気が庭を包んでいる。
08:00。
レティは寝間着姿で自室の鏡の前に座っていた。
メイベルがレティの髪を梳かしながら、どこか浮き浮きしたような声で言う。
「明日はついに、レティ様の誕生日ですね」
「……」
「けれど、よろしかったのですか? 舞踏会はしない、など……」
「いいの。そういうの苦手だし、それに……もう婚約してるしね?」
レティははぁと息をついた。
自分で言いながら気分が重くなる。
――――明日、レティは17になる。
そして来月末にはイーヴも17になる。
『二人が17になったら、婚儀を挙げる』というのは婚約時から決まっていたことだ。
「……うーん……」
レティは瞳を伏せ、内心でため息をついた。
自分がブラックストン侯爵家の嫁として相応しいとはとても思えない。
それは婚約した時から、ずっとレティの心の中にあった疑問だった。
その疑問は今も消えてはいない。