千の夜をあなたと【完】
「まともに説明すると3日3晩かかるけど。お前がその間、一睡もせずに俺の話を聞いてるってなら説明してやるけど?」
「…………」
「ちなみに一瞬でも寝たら、即座にお前の顔をスープに突っ込むから、そのつもりで」
「わかりました、イイです、飲みます」
レティはスプーンを手に取り、内心でエグエグ泣きながらスープを掬った。
口に入れる前から既に生臭い匂いが漂っている。
イーヴはアカデミーで様々な薬草の研究を行っており、教会の要請で特殊な丸薬や煎じ薬を作ることもある。
それらの品は教会のみならず各地の名家の間で出回っており、イーヴの名はブラックストン伯爵としてよりもむしろ、薬草学の天才として知られている。
そんなイーヴがわざわざレティのために作ってくれたとなれば有難いと思わなければならないのだろうが……。
素直に感謝できない、というかしたくない。
スプーンで掬って口に入れると、何とも言えない苦みと生臭さが口の中に広がる。
レティは数口運んだところで、手近にあったアーモンドミルクを飲んだ。
もともとアーモンドミルクは好きだが、このスープを飲んだ後ではまるでアムリタのようにも思えてくる。
――――10分後。
レティはようやくスープを飲みきった。
スープは飲みきったものの、なんだか既に食欲がない。
と肩を落としたレティに、イーヴは優雅にカトラリーを使いながらにっこりと笑いかける。