千の夜をあなたと【完】
予想もしない光景にレティは思わず声を上げた。
ドアの横に置かれた飾り棚の上に、大きな薔薇の花束が置かれている。
それはスノーメアリというレティの好きな品種で、母のロレーナも生前、この薔薇をとても気に入っていたらしい。
そして花束の横には、蜂蜜とアーモンドの焼き菓子が入った籠が置かれている。
レティは昔からこういう焼き菓子が好きで、幼い頃はよくメイベルに作ってとねだっていた。
スノーメアリの花束も焼き菓子も、どちらもレティが本当に好きなものだ。
レティのことをよく知っている人物でなければ、これらのものを用意しようとは思わないだろう。
そして、その籠の脇に置かれていたのは……。
「……これは……」
レティは震える手でそれを手に取った。
それは昨日、図書館で見たあの本だった。
本には一ページごとに紙が挟まっており、紙にはレティが読めるウェールズ語で訳が書かれている。
レティは驚きのあまり目を瞠った。
レティがこの本を気に入っていたことを知っていて、そして……ラテン語からウェールズ語に翻訳できるのは、一人しかいない。