千の夜をあなたと【完】




予想もしない光景にレティは思わず声を上げた。

ドアの横に置かれた飾り棚の上に、大きな薔薇の花束が置かれている。

それはスノーメアリというレティの好きな品種で、母のロレーナも生前、この薔薇をとても気に入っていたらしい。

そして花束の横には、蜂蜜とアーモンドの焼き菓子が入った籠が置かれている。

レティは昔からこういう焼き菓子が好きで、幼い頃はよくメイベルに作ってとねだっていた。

スノーメアリの花束も焼き菓子も、どちらもレティが本当に好きなものだ。

レティのことをよく知っている人物でなければ、これらのものを用意しようとは思わないだろう。

そして、その籠の脇に置かれていたのは……。


「……これは……」


レティは震える手でそれを手に取った。

それは昨日、図書館で見たあの本だった。

本には一ページごとに紙が挟まっており、紙にはレティが読めるウェールズ語で訳が書かれている。

レティは驚きのあまり目を瞠った。

レティがこの本を気に入っていたことを知っていて、そして……ラテン語からウェールズ語に翻訳できるのは、一人しかいない。


< 83 / 514 >

この作品をシェア

pagetop