千の夜をあなたと【完】
7.凄腕の剣士
<side.モルガン>
――――それは、雨が降りそうな日の夕刻だった。
曇天の下、モルガンは部下のザインとケルビンとともにティンズベリーの繁華街の裏道を歩いていた。
まだ夕刻だが、三人とも顔が赤らみ酒臭い息を吐いている。
父のナイジェルの葬儀が一通り終わったため、それまでの堅苦しさのウサを晴らすように、昼間から飲み歩いていたのだ。
「ザイン、ケルビン。もう一軒行くぞ~」
「モルガンさま、そろそろお屋敷に戻られては……」
「いいさ、別に。もう親父もいないしな、これからはオレが……」
と、モルガンが丸々したお腹を掻きながら言った時。
その男はまるで幽鬼のように脇の路地から足音もなく現れた。
艶やかな長い亜麻色の髪に、万年雪のような冴え冴えとした蒼い瞳。
しなやかで均整のとれた長身の体に、黒い薄手の衣装を身に着けている。
思わず目を奪われてしまうほどの美形だが、その目は禍々しく、どこか狂気じみた鋭さがある。
「モルガン・ティンバートだな?」