千の夜をあなたと【完】
「あいにくおれは狂ってるつもりはないんだがな。……ま、死にゆくお前には関係ないことだが」
「……っ、なんだと!?」
「悪いが、貴様は家には帰れん。永遠にな」
言いながら、ライナスは一歩、また一歩と近づいてくる。
……その手に、なぜか剣はない。
けれど多少なりとも剣技をかじった者であれば、只者ではないと一目でわかるだろう。
モルガンは腰の剣を抜き放ちながら、ザインとケルビンに叫んだ。
「ザイン! ケルビン!」
「はっ、モルガン様!」
「いくら『氷眼の狂剣士』といえど、相手はひとりだ! 殺っちまうぞ!!」
モルガンは言い、剣を構えた。
ザインとケルビンも同様に剣を抜き、構える。
しかしライナスは全く動揺する様子もなく、手ぶらのまま三人の方へと近づいてくる。
ケルビンは剣を構えながら、喚くように言った。
「……き、貴様、このオレが何者かわかってるのか!?」
「さぁな。豚の息子ということしか知らん。人間かどうかもはっきりしない」