千の夜をあなたと【完】




吸い込まれそうに綺麗な笑顔だが、イーヴが笑うとろくなことはないとこれまでの経験則で熟知しているレティは思わず目を逸らしてしまった。

そんなレティに、イーヴは物憂げな青灰の瞳を細めて口を開く。


「今日の午後、ティンズベリー教会に行くから。お前もついてきて」

「……」

「14時に厩舎前に集合。わかったね?」


有無を言わせぬ口ぶりにレティははぁと息をついた。

普通であれば、伯爵令嬢に厩舎前に集合などということはありえない。

しかしイーヴにはそれが許されてしまう。

それはひとえにイーヴの父が侯爵であり、レティの父よりランクが上だからである。

そしてイーヴ自身もレティの父と同じ伯爵の称号を持っている。

……つまり。

伯爵位を持つ父ですらも、コイツの言うことを無下にはできないという恐ろしい状況なのだ。

しかもさらに恐ろしいことに、レティが夏に『御輿入れ』する相手はコイツだったりする。

もちろん表向きは口が裂けても『コイツ』などと言える御方ではないのだが。


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