千の夜をあなたと【完】
「特に問題はないだろう。あの男の目的ははっきりしている。それぞれの目的に徹すれば、特に問題はない」
「ですが……」
「屋敷の情報を提供する代わりに、彼女には手を出させない。……となると、奴の餌食になるのは必然的に決まってくるが。まあ、仕方ないだろう」
エスターは言い、唇の端を歪めて笑った。
……その、全く感情のない冷たい瞳。
いつもの穏やかな優しさはかけらも見えないその表情。
エリオットは内心ぞくっとしながら、口を開いた。
「しかし、彼女が害されたら……ブラックストンは……」
「許さないだろうな。恐らくブラックストンの全てを使い、奴を始末にかかるだろう。……だがそれは、私達には関係のないことだ」
エスターは言い、ふと窓の外を見た。
……赤い、黄昏に染まる空。
血の色にも見えるその空は、これから起こることを予知しているようにも見える。
エスターはひとつ息をつき、夕陽を遮るようにカーテンを閉めた。
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