千の夜をあなたと【完】
――――5年前。
父が催した晩餐会兼舞踏会で、イーヴは欠伸を噛み殺しながら招待客達の挨拶を受けていた。
イーヴは昔から勉強や研究が好きで、舞踏会などにはまるで興味はなく、暇さえあれば部屋に閉じこもって本を読んだり実験をするような子供だった。
イーヴは10歳の頃、父に『自分は研究を続けたい、当主の座は弟に継がせてくれ』と言った。
しかしイーヴは嫡男で、長男だ。
父がそんなことを承諾するはずもなく、イーヴは侯爵家の長男として鬱々とした日々を過ごしていた。
長男の将来を心配したブラックストン侯爵は、幾度か舞踏会を開催してイーヴの興味を引こうとした。
しかし11歳の少年にとって、それらは退屈以外の何でもない。
イーヴはうんざりし、ホールを出た。
そのときだった。
柱の陰から一人の少女が飛び出てきた。
綺麗な栗色の髪と大きな褐色の瞳が印象的な少女で、イーヴは思わず目を奪われた。
「あ、ごめんなさい。失礼致しました」