千の夜をあなたと【完】
イーヴが侯爵の息子だと分かったのだろう、少女はぺこりとお辞儀すると庭の方へと駆けていった。
他の令嬢であればこれ幸いとばかりにイーヴにいろいろ話しかけようとするのに、彼女は自分に見向きもせず走り去っていく。
――――不思議な少女だ。
それが、イーヴの少女に対する第一印象だった。
そして数刻後。
父の侯爵の命で貴族の娘たちがホールの一か所へと集められた。
そして同じように貴族の息子たちがホールの一か所へと集められる。
こういった晩餐会や舞踏会は貴族たちにとっては子女のお見合いの場となることも多い。
イーヴはそれを少し離れた席から興味なさげに眺めていた。
――――どの女も同じに見える。
どの女も華美に着飾って表情が乏しく、まるで人形のようだ。
将来この人形のような女の一人と結婚し、閨で抱かねばならないと思うとぞっとする。
内心で嘆息しつつその光景を眺めていたイーヴだったが、ホールの端の方にあの少女の姿を見つけ、目を見開いた。
「……あれは……」