千の夜をあなたと【完】
少女は褐色の瞳をきょろきょろと彷徨わせ、ホールの中を興味深げに見渡している。
イーヴは吸い込まれるように彼女を見つめていた。
なぜなのかはわからないが、この人形のような女達の中で少女だけが『生きている』ように見える。
イーヴは無意識のうちに少女の方へと歩き出した。
……が。
イーヴの目の前で、ひとりの青年が少女にダンスを申し込んだ。
青年はウェールズ中東部にあるバイロン家の青年で、確か伯爵の家系だ。
少女はしばし戸惑ったように青年を見つめた後、優雅な所作でお辞儀した。
「わたくし、レティーシャ・アリー・ティンバートと申します。よろしくお願い致します」
明るく朗らかな褐色の瞳に、イーヴの視線が吸い込まれる。
イーヴは少女を見つめながら、その名前を無意識のうちに胸の中に刻み込んだ。