キウイの朝オレンジの夜
あたしはにっこりと微笑む。
「はい!」
先に行くぞ~とのんびりと言いながら、亀山さんは行ってしまった。その背中に拍手を送りたかったあたしだった。
残された梅沢さんに向き直って笑顔を出した。
「いいコンビですね、楽しかったです」
彼女はあはははと軽く笑った。
「転職組みなんだけど、同期なのよ。一緒に仕事してるから四六時中一緒にいるわ」
あの信田とかいう男から受けた悔しさはぶっ飛んでしまっていた。
枕営業してんでしょ?という中傷はよく受けるが、その時に相手側の会社の人から助けて貰ったのは初めてだった。
梅沢さんは申し訳なさそうに、本当に失礼しました、と言う。
そのタイミングや声のトーンが心に染み入る。この人は営業としても優秀なんだろうなあ、と思った。
「本当に大丈夫です。実際のところ、よくありますから」
あたしの返事に眉を寄せて、大変ねえ、としみじみ言う。そして、時計を気にしてからにっこりと微笑んだ。
「ねえ、あたしの保険を見てくれない?もう5年以上見直してなくて、内容ですら曖昧なの。説明してくれると助かるんだけど」
慰めてくれてるんだと判った。あたしは温かい気持ちになって頷く。
木曜日は割りと夜も早いから、と翌日の約束をして、梅沢さんは事務所に戻って行った。
あたしは彼女の姿が消えるまで頭を下げていた。素敵な出会いに、神様に感謝した。