キウイの朝オレンジの夜
たまに質問で口を挟む以外は黙って聞いてくれる。その姿勢も嬉しかった。分かった振りも無駄な横槍もない。
出来るだけ専門用語を使わないように噛み砕く努力はするが、やはり保険商品は複雑なのだ。真剣に聞いて貰えれば、それだけ時間を節約出来るし、混乱も少ない。
一発で理解しろって方が、無理。あたし達営業みたいに365日いつでも保険のことを考えている人種だって、やはり混乱することが多いのだから。
梅沢さんは潔い性格らしかった。
つまり、と自分にとって大事な要点だけを取り出して確認した。混乱するような特約や制限に関しては一切を省いて。あたしは考えながら、多少説明を加え、誤解を解く。
にっこりと微笑んで梅沢さんは言った。
「あら、私ったらいい保険を持っていたのね」
「そうですね、この当時では、一番いいものだったと思います。契約されたときから環境など変わったことはありますか?」
ううーん、としばらく悩んで、新しいタバコでテーブルにトントンとリズムを刻む。相変わらず独身だし、病気も別にしてないし・・・と小声でブツブツ言っていた。
バックにはジャズがゆったりと流れ、目の前には素敵な女性。満足のいく説明が出来たし、若干酔っ払ってもいた。
あたしは気分が良かった。
その時、鞄に突っ込んでいた携帯の振動に気付く。梅沢さんが、どうぞ~と言ってくれたので、すみませんと席を立った。