キウイの朝オレンジの夜
大卒で入社した所謂キャリア組み女子が一般の地域の支部に下りてくることなんて滅多にない。だから最初は色々警戒されていたけれど、酸いも甘いも噛み分けた主婦出身の皆様にはすぐに受け入れて貰えた。
それは営業成績で支部をひっぱる稼ぎ頭としての期待もあったし、独身で家庭が大変な状態な女の子に対する同情もあった。
だけど元々あっさりしたタイプが生き残る営業の世界で、面倒なことを嫌う風潮がとくに強かったこの小さな支部では、平和がスローガンだったようで。
ここに移籍して1年半、あたしは既にマスコット的な地位に居ているわけだ。
世間一般ではボチボチお局様と呼ばれてもおかしくない年齢ではあるが、毛細血管の末端のような地域担当の保険会社の支部においては20代なんかまだまだ子供扱いなのだ。なぜなら、このような支部では入社年齢が30歳超え子持ち、が、普通だから。
「・・・それがですね。ヤツは残業で帰ってこなかったんです」
疲れ果てたあたしはぼそぼそと話す。
大久保さんは、うん?と首を傾げてコーヒーカップを持ったまま隣の席に腰掛けた。
「どういうこと?」
「忙しいんだそうで・・・会社で人員整理がありまして、その皺寄せです。とにかく帰ってこなかったので、あたしは他人の部屋で一晩中待ちぼうけでした」
はあ、とあたしの顔を覗き込む。
「それで目の下のクマなわけね」
「はい、丹念に隠したはずなんですが、駅までの突発豪雨でそれも流されました」
大久保さんはカップを置いて困った微笑をした。