キウイの朝オレンジの夜


 顔を上げる。また男性二人と目が会う。・・・無理。あたしはするりと頭を下げて、床から鞄を持ち上げる動作に没頭することにした。

「何をされたの?」

 楠本さんがビールを飲みながらあたしに聞く。

 ・・・ああ、伝説のイケメンに話しかけられる幸せも薄れるぜ、あの話題を出すと。あまり口には出したくないし、鞄を拾って腕にかけながらあたしは手を振った。

「いえ、大したことでは」

「言えよ」

 今度は稲葉さん。マスターが出してくれた水を飲んでいる。

 ・・・いやーん(泣)ほっといて下さい・・・。若干半泣きになる。ううう・・・梅沢さんと一緒に店を出るべきだった。

「大したことじゃないです!では、支部長、あたし帰りま―――――」

 チラリと稲葉さんがあたしを見た。その後ろでは、片手で顎を支えながら楠本さんもあたしを見ている。気を失うかと思った。

「帰りたかったら、言え。でないとアポノルマ加算するぞ」

 鬼そのものの言葉を吐いて、稲葉さんが可愛らしく笑う。


 ・・・アポノルマ、加算・・・。ただでさえ吐きそうな量を言い渡されているのに、これ以上加算するというのか、この男。一体どこに電話しろってゆーの。

 あたしは思わず天を仰ぐ。

 あーあ、それに詰める時に甘え顔全開で笑うの止めて欲しい。それって真顔よりも恐ろしい。


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