キウイの朝オレンジの夜
「だから、結構ですって!支部長~!!」
「遠慮するな」
遠慮じゃねえよ!!あたしは心の中で叫んだ。腕は痛いし、鞄は重いし、それにコートすら着てないのだ。寒い寒い寒い!!
「支部長~!!寒いんです~!!」
「すぐだすぐ」
鬼いいいいい~!!あたしは唇をかみ締めて耐えた。梅沢さーん、ここにもあたしを脅かす男がいます~!たーすーけーてえええええ~!!
冬の夜の町を、上司に引き摺られながら歩いた。最後の方は諦めた。暴れると温かくはなるかもしれないが、後で仕返しが怖い。この上司は公私混同も著しくノルマを加算する形で仕返しするに違いない。
「もう逃げませんから、離して下さい。痛いです!」
これだけは、と思って言うと、やっと着いた支社のビルの入口で稲葉支部長はあたしを解放してくれた。
「悪い」
あたしはふんと鼻を鳴らす。ちいーっとも悪いと思ってなさげ。可愛くね~。
「痣になってたら、アポの件数減らしてください」
「それは却下」
「・・・鬼」
小さく呟いたのに、ちゃんとキャッチしたらしい男が、あたしを見下ろしながらにやりと笑った。