キウイの朝オレンジの夜
「3年前も今も、どっちにしろ神野は必死で食いついてくるからな。指導しがいがあるんだ」
「・・・指導でなくいじめです」
エレベーターに向かいながら、ヤツが振り向いた。
「何か言ったか?」
「いえ何も」
あたしは両手をぶんぶん振る。
支部長の言葉で、さっき梅沢さんと支部長が話している時楠本さんがあたしに言った言葉を思い出したのだ。
彼はあたしを見ながら言った、あの素敵なハスキーな声で。
『・・・君が、神野さん。稲葉のお気に入りか』。
それは、あたしが食いついていくからだった、らしい・・・。
自分の負けず嫌いをあたしは呪った。
「お邪魔します・・・」
あたしはコートと鞄をお腹に抱えて支部長の車に乗り込む。シルバーのやたらと早そうな車で、あたしは初乗りだった。
稲葉さんに同行してもらったことはまだないのだ。
ただし、支部の駐車場に停めてあるこの車を蹴っ飛ばしたことは何回かある。それは勿論秘密だ。
「冷えるなー。ちょっと待って」
ヒーターを入れてそう言う稲葉さんを見ないように助手席に座る。・・・後ろの席でもいいんだけど、この車、後ろに乗ろうと思ったら前の席を倒さなければならない。支部長がそれをしてくれるとは思えない・・・。