キウイの朝オレンジの夜
あたしの言葉に支部長は頷く。
女性営業を守るすべとしては、行き先を必ず誰かに言うことと、新規の家への飛び込みは二人以上で、とするしかないのだ。もし変な人間の家に飛び込んで、拉致監禁されたりすると大変だから、ということで。
お金に関わる仕事なので、玄関先で込み入った話なんかしない。
そんなわけで家の中に入り込み、襲われないとも限らないのだ。
「・・・頼むから、一人で地域の飛び込みはしないでくれ」
あたしは両手に息を吐きかけながら言った。温まるの、遅いなこの車。
「あたしより、繭ちゃんですよ。若いし美人だから本当に危険」
支部長がまた唸った。
「・・・返事は、ハイ、だろ。何かあってからじゃ遅いんだ」
「へ?繭ちゃんが?」
「・・・もういい」
稲葉さんは何やら疲れた様子で車を出す。あたしは窓の外を向いてぺろりと舌を出した。
黙ったままで、車は走る。エンジン音もほとんど聞こえないし、稲葉さんは音楽もつけなかったので、車内は静かだった。
あたしは居心地が悪くてシートに寄りかかる。うーん・・・何話していいか判らない。