キウイの朝オレンジの夜
仕方なく窓の外をずーっと見ていたら、ゆっくりと稲葉さんが口を開いた。
「・・・楠本さんなら、よく判るんだろうなあ・・・」
うん?あたしは体を稲葉さんのほうへ向ける。楠本FPが何だって?
あたしをちらりと見て、稲葉さんが言った。
「さっきの話。楠本さんなら、いく必要はないって言いそうだな、と思って。あの人は自分の容姿を憎んで、営業活動に支障が出るからと女性客からの契約は一切取らなかったんだ」
「え!?」
あたしは思わず叫んだ。・・・マジで!?そんなこと可能?だってだって、あの人の成績の良さは本当に有名だった。広報誌にもよく載ってたし、一年の獲得件数は凄いはずだぞ!?それ全部、男性オンリー??
「本当ですか、それ?」
前を向いたまま、うん、と稲葉さんは頷く。そして目元を和らげて話し出した。
「楠本さんは、凄い。自分の力を試したいってルックスを利用しないと決めて、それでもちゃんと結果をだしてたんだ。女性からの契約に頼らないとなると、人の3倍は動かないと到底無理だと思う。契約が取れなくて苦しんだ期間も人よりは長いんだ」
そりゃあそうだろうなあ・・・。あたしは黙ったままで考える。収入源は男性にあるとしても決定権は女性が持っていることが多いものだ。女性抜きで考えるとほとんど動けないと思うけど・・・。それを、やったのか。
「まあその分、自分のスタイルを確立してからは不況知らずの営業になったけどな。だから、あの人なら、そんな職域にはいかなくていい、とか言いそうだな」