キウイの朝オレンジの夜
・・・ふーん。楠本さんが営業から支部長職への昇進は選ばずにFPになったのって、それも原因としてあるのかな。
「・・・稲葉支部長は営業のとき、どうだったんですか?」
あたしは言った。自分の容姿を利用したのか、と気になる。稲葉さんはふ、と小さく笑って言う。
「俺は違ったな。契約してくれるお客さんが俺の外見で喜んでくれるなら、それはそれでいいじゃないかと思っていた。どんなこと言ったって、お客さんが最終的に長く続けてくれるのはその人にマッチした設計の内容だ。その点、やっぱりシビアなもんだよ」
「はい」
「自分の外見だけで契約を頂いたって、それだけなら長く続けて貰えない。だから、早期の解約になればニード喚起が足りなかったんだろうな、と反省した。自分の設計技術の糧にしたんだ。納得して頂けるまではこちらから契約の拒否をする。新商品が出ればパンフレットを熟読して、研修をお願いする」
・・・へえ。あたしは俯いて自分の両手を見詰める。
どっちにしたって、凄い話だ。だけど、稲葉さんの設計技術が高い理由はそこにあったのか、と思った。
自分の容姿を拒否して利用しなかった楠本さんと、敢えて利用してお客さんの反応を見ていた稲葉さん。
・・・なんか、美形は美形で苦労があるんだなあ~・・・。もっと気楽にホイホイ契約とってたんだと思ってた。反省しよ。彼等はあたしなんかより、もっともっと仕事に対して真面目で、真っ直ぐなんだ。
「楠本FPの方が、先輩なんですよね?」
あたしの質問に頷く。
「1こ上。入社した時から噂に聞いていて、教官も褒めるし憧れだった。一度だけ成績が並んだことがあって、嬉しかったな~、あの時」