キウイの朝オレンジの夜
・・・ふうん。稲葉さんは32歳のはずだから、そうすると楠本さんは多分33歳?・・・何しか、素敵な男だった。
会話が途切れてまた車の中は静かになった。稲葉さんは稲葉さんで考え事をしているようだった。
晩ご飯を食べずにビールを飲んだから、空腹を通り越して眠くなってくる。既に車の中は適度に暖められて、窓の外に流れては過ぎていく街の明りを見ていたら、うとうととしてしまった。
稲葉さんの車に乗ってるなんて・・・あたしが。信じられない。
厳しかった鬼教官が自分の上司になって毎日顔を合わせる。今では褒めてくれるだけの時だってあるし、夜の残業で二人で言い合いするのにも慣れてしまった。たまに支部長が会議や宴席で不在だと、誰もいない支部での残業が寂しくなるくらいには。
・・・・慣れたってことよ、それだけのこと・・・。ぼんやりと揺られながらあたしは頭の中で繰り返す。
稲葉支部長が気になってるんじゃない、厳しさにうんざりして―――――――・・・
急にグン、と体が前のめりになって悲鳴が出た。隣から舌打ちが聞こえて、車が急ブレーキをかけたんだとわかった。
あたしはシートベルトを握り締めながら、目を開いて周りをみた。
前3台の車が、先頭車に何かあっていきなり止まったらしい。それで急ブレーキが・・・とまで考えて、あたしは気付いた。
あたしの体の前には稲葉さんの左手。