キウイの朝オレンジの夜


 片手でハンドルを握って、急ブレーキであたしが前に飛ばないようにとっさに手を出してくれたらしかった。

 ・・・シートベルト、してるのに。

「・・・あぶねー。大丈夫か?」

 隣から、稲葉さんが振り返る。あたしはしばらく彼の左手を見ていて、それから頷いた。

「・・・大丈夫、です。――――――ありがとうございます」

「え?」

 何がって顔で稲葉さんがあたしを見る。

「・・・手で、支えようとしてくださったんですね」

 ああ・・・と稲葉さんも気付いたように少し笑った。そして手を引っ込める。

「無意識だな。神野が怪我したら大変だ」

 言葉が、かーんと全身に突き刺さった。あたしは思わず震える。

 動き出した前の車について、稲葉さんも車を動かす。あたしはシートベルトを握り締めたまま、俯いた。

 ・・・やっばい・・・。

 目を閉じた。心の声を間違っても出してしまわないように、自分自身に落ち着け、と唱える。


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