キウイの朝オレンジの夜


「――――――はい。ヤツとは終わりました。結婚もなしです」

 あらまあ!とため息が漏れる。この支部で独身なのは、事務員の横田さん(26歳)とあたし、新人の繭ちゃん(24歳)だけなのだ。そして、皆の意識の中で結婚適齢期でリーチがかかっているのはあたしだけ。それでも長年付き合っている彼氏持ちだということで、世話焼きな人々も大してあたしには意識を向けてなかったのだ。

 それが、郊外の山近い小さな街の保険会社支部のマスコット、玉ちゃん、フリーに。

 既に生涯の伴侶をみつけてその2世を数人生み出している皆さんが、半分嬉しそうに半分同情に満ちた顔であたしを見詰めている。

 その時、俄かに騒がしくなった支部の中で、はっきりと通る声でその場を仕切ったのは副支部長の宮田さんだった。

「ほら、もうすぐ朝礼よ!皆さん忘れてるようだけど、今日は新しい支部長がいらっしゃるんですよ~!ちゃんと席についていてくださいね!」

 時計を見ると8時40分。

 皆仕方なくバタバタと就業の準備を始める。あんまり気を落とさないようにね!11月戦も近いんだから!と数人に声を掛けられて、あたしは曖昧に頷いた。

 そして化粧ポーチを持って立ち上がった。

 そうだ、今日は9月の人事異動でこの支部に配属が決まった新しい支部長が本社から来るんだった。支部長になって3年目とかいう、まだ若い男性支部長だと聞いている。


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