キウイの朝オレンジの夜
稲葉さんが椅子に座るあたしの後ろに立ったのが判った。香りがふわりとあたしを包み、あたしは思わず両目を瞑る。
落ち着け落ち着け、大丈夫大丈夫。
ここ2週間とちょっと完璧に稲葉さんから逃げていて、まともに話したことは2行くらいだ。それも、ほとんど挨拶。
やっと鼓動も落ち着いてきたところだった。
逃げるのに、慣れてきたところだった。
・・・うわーん、やばい。逃げなきゃ。
あたしは引きつった笑顔で副支部長を見て、立ち上がった。
「では、あたしは仕事に戻ります」
「あ、はい。お疲れ様」
宮田副支部長の声は背中で聞いて、あたしは既に歩き出していた。だけど、2歩ほど進んだところで、また明るい声が追いかけてきた。
「――――――神野。次は俺と対話だろ」
ぴたりと足が止まる。
冷や汗が背中を伝ったのが判った。
振り返りもせずに、あたしは呟く。
「―――――ええとー・・・・。すみません、支部長。あたし、これからアポが――――――・・・」