キウイの朝オレンジの夜


「アポ?何時から、誰の、Sはいくらの?」

 ぐっと詰まった。きっとヤツのことだから、あたしが出した計画表は熟読済みなのだろう。バレる嘘はつけない。

 そろそろと口を開く。まだ振り返らない。

「・・・S2100万、鈴木様です。6時半からですが、もう出ます。電車で行きますので・・・」

 稲葉さんが小さく笑った声を背中で聞いた。

「6時半からの?えらく早く行くんだな。よし、俺が送ってってやる」

 え。

 あたしは下を向いたままで更に引きつる。

 慌てた声で副支部長が音を立てて立ち上がった。

「あのっ!わ、私が送りますので、支部長!お忙しいでしょうし――――――」

 固まったままであたしが聞いていると、稲葉さんは副支部長の声を穏やかに遮った。

「宮田さんは同行があっただろう?いいよ、俺が行く。そうすれば移動中に対話も済ませられるしな」

 いきなり空気が張り詰めた上司席の周りを、他の皆が怪訝な顔で見ているのが判った。


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