キウイの朝オレンジの夜
楠本さんは椅子にもたれかかった。
「俺は女性客は排除してきた。だけど、稲葉の姿を見ていたら、それは間違いだと思うようになったんだ。自分の勝手で区別しているって。俺が保障を持つのを勧めることで、救えたかもしれない女性が何人いたんだろうって」
それはそれは、泣きたくなるような責任の話だった。
あたしは自分の両手を見詰める。
この手で設計した保険が、誰かの生活とその家族を経済的に守る。そう本気で思って設計していたのは、一体いつまでだっただろうか。
判らなければ聞けばいいと、自分で保障について調べなくなったのは、いつからだっただろうか。
なんて甘えていたんだろう。
・・・稲葉さんの設計技術、色んな抜け道や加算方法を知っているのには、そんな過去が原因としてあったんだ。
楠本さんはにっこりと笑う。そして謝った。暗い話をして悪かったって。あたしはただ首を振る。
それからは30分ほど楽しい話で盛り上げてくれたけど、笑いながらもあたしの頭の中は稲葉さんの過去の話がぐるぐると回っていた。
これではいかん、と楠本さんのご家庭の話を聞いたりして、頭から追い出す努力はしたのだ。だけど徒労に終わった。