キウイの朝オレンジの夜


「そりゃそうだよね・・・。でも何で辛いの?好きな人と働けるって最高じゃない?」

 あたしは手をヒラヒラ振る。

「それは、叶うかもしれないってどっかで思えるからでしょ?あたしは絶対無理だって判ってて、それなのに毎日顔を合わせるのよ。二人っきりにならないように活動時間帯は変えたりしてんだけど・・・どうもね・・・」

 盛大なため息がもれた。

 隣で菜々も黙ってしまう。想像したのだろう、自分のバージョンで。

 あたしは稲葉さんの性格を話した。うちの新人がアタックしてケンモホロロだったことも。

 二人で暗く黙り込む。酔いもあって、悲壮感が増したようだった。

 バスがトイレ休憩で大きなサービスエリアに入っていく。

 あたしは菜々と、とりあえずこの旅行では楽しくやろう、と誓いあって外に空気を吸いに出た。

 折角会社公認で騒げるのだ。大いに楽しまなければ。

 トイレに行き、飲み物を買って、タバコを吸う菜々に付き合って喫煙コーナーにいった。

 まだ休憩時間は数分ある。

 菜々が嬉しそうに一服していると、営業部長と他支部の支部長数人がやって来た。

「おう、神野さん」

 機嫌良さ気な営業部長があたしの肩を叩く。スーツ姿でないと、5歳は若く見えるな、この人。


< 164 / 241 >

この作品をシェア

pagetop