キウイの朝オレンジの夜


「いたな、神野。これ持ってて」

 あたしに鞄とコートを押し付けて、腕まくりをしてラケットを持った。

「・・・お疲れ様です。頑張って下さい」

 あたしの言葉に、あの甘え顔でキラキラオーラを放ちながら稲葉さんは頷いた。

「任せとけ」

 そして卓球台に向かう。

「・・・まじで。超いい男・・・」

 隣で菜々が、ぼそりと呟くのが耳に届く。

 さっき勝った職域担当の支部長、長嶺さんが不敵な笑みで相手コートに立った。

 稲葉支部長と社歴が近いらしく、稲葉さん赴任以来何かと目の敵にして成績を競っているのだと聞いたことがある。

 あたしの移動で痛手を負った、何でよりによって稲葉の支部なんだ!と支社の研修に出向いたときに苦情を言われたこともあったなあ、そういえば。

 で、あたしは、自分の移動の後に勝手にあっちが赴任してきたんです!と返したんだった。

 営業部長はじめ、居並ぶ優績職員の前で、にっくき稲葉を倒せるチャンスとあって、長嶺支部長は興奮しているようだった。

 一方淡々と構える稲葉さんは、戦意なんかちっともなさそうだ。大丈夫か?


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