キウイの朝オレンジの夜
2、新支部長、登場。
有能な鬼と死にそうなあたし。
遠く離れた本社からこの片田舎の小さな支部に赴任してきた新支部長・稲葉さんは、耳触りのよい明るい声で簡単な自己紹介をして22名の部下を笑顔で見渡した。
自分は支部長職についてまだ3年目だ、伝統のある名門の支部にこれて嬉しい、自分がここの足を引っ張らないように奮闘する、云々。
隣で野波さんが呟くのが聞こえる。
「・・・いい男だわ~」
支部長の挨拶中、これで3回目。よっぽどお気に召したようだ。
ここの前の支部長は、全国の女性支部長の頂点に立つ人だった(職歴、営業力、サポート力、全てにおいて)。彼女は在任中の7年間思う存分その手腕を発揮し、営業職員の数を増やし、新人を育成し、ベテランを上手にのせてやる気を起こさせ、支部の成績はいつでも群を抜いてよかった。
こんなにまったりとしたペースの自治会のようなノリの支部ではあるが、社内報には支部名がのり、支社の大会でも壇上表彰は当たり前、という「名門」に成り上がったのはひとえに前任の女性支部長のお陰だ。
キャリア組みでみっちり教育も研修も受けてきたあたしも、ここに来て学ぶことが多かった。
彼女の下で働けて幸運だったと、心底思っていた。
その彼女が惜しまれつつも定年退職となるに当たって、あとを引き継ぐ人選は支社も本社も悩んだに違いない。
支部長暦は短いとはいえこの支部を任されるということは、やはり彼は優秀なのだろう、とあたしは成績ボードの前でキラキラとオーラを放つ稲葉さんを眺めた。
相変わらず、エリートで、美形、か。天は2物どころか3も4も与える人間だっているんだな。あたしは心の中で呟いて、下を向いてため息をつく。